『セオラー宣言』ドラフト置き場

R大学I氏は寿司が好きだった

レゾリューションの解釈の難しさ、それはレゾリューションの悲しみ

ほとんどの人は、どのレゾリューションでもというわけではないにしろ、レゾリューションの解釈は非常に難しいと感じていると思います。そして、レゾリューションの解釈を考慮して論題を作成することからして難しいというのが一般的な認識でしょう。

その根本的な原因は、レゾリューションが文脈のない1つのセンテンスとして提示されていること、そして把握しなければならないのは話者の意図ではなく(そもそもレゾリューションは話者がいない)センテンスの意味であることです。これらは現実世界ではほとんど出会わない状況です。通常、口頭での会話にしろ文書でのやり取りや読書にしろ、必ず文脈はありますし、把握しようとするのは意味ではなく話者の意図です[1]。このレゾリューションが置かれた特殊な状況によってさまざまな問題が生まれてきます。それらの詳細については後述します。

ちなみに、今のような形式のレゾリューションでトピックを限定していることは『上巻』でいう競技制の失敗です。1つのセンテンス、それも"The Japanese government should…"という形式によるトピックの限定は、本来ディベーターが実現したいトピックの限定を厳密かつ簡潔に示す方法としては不適切なのです。

たとえば、こんな論題作成の思考プロセスは日常茶飯事ですよね。論題作成者は「消費増税」をトピックにしたいが、0.1%増とか100%増とかあまりに極端な増税幅でケースを出してほしくない。ただ、AFFには増税についての一般性は求めず、AFFは自ら指定した特定の増税の下でのみ消費増税を肯定する形にしたい。

この場合、何も1つのセンテンスをこの論題作成者の希望を表すことにこだわる必要はありません。たとえば、以下のようにつらつらと論題作成者の希望を書き連ねるだけでも、表現に気をつければ今のレゾリューションの形式よりはよほど厳密なトピックの限定はしやすいでしょう。

「AFFは「消費税を上げる」という政策が望ましいことを示すものとする。ただし、AFFは1ACにおいて同政策の増税を5%~20%の範囲から1つ指定し、その増税を前提に同政策について論じるものとし、指定されなかった増税を前提とした同政策が望ましいかどうかについての議論は判定において無効とする。」

にもかかわらず、今のレゾリューションの形式に囚われているため、頻繁に間違いが起こるのです。間違いというのは、論題作成者の希望が実際のレゾリューションに正しく反映されていない、あるいは実質上ディベートが不可能なレゾリューションになっている状態のことです。

『下巻』の視点で見ればこんなトピックの限定の方法はやめてしまえと言えば終わりなのですが、セオラーは現行の枠組みの中でもできる限りのことをしなければなりません。レゾリューションの悲しみから逃げずに向き合いましょう。

 

[1] 言い間違いがある場合なんかを考えると分かりやすいでしょう。話者が「名誉挽回」を「名誉返上」という言い間違ってしまった場合、大抵は聞き手が文脈から言い間違いであることを読み取り話者の意図を確定できます。また、極端な例としては皮肉が挙げられます。皮肉の場合、話者はわざと自分の意図とは異なる意味の言葉を吐いています。